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生まれる予約 [記事]

 令和になる二週間前に、お祖父ちゃんが亡くなりました。
去年の8月から、長い入院生活を送っていて、こうきもよくお見舞いにいって
くれました。
 「おじいちゃん、こんにちは」
いつものよく響く声でこうきが病室に入っていくと、
「オウ」と嬉しそうに返事をして、こちらに顔を向けてきたお祖父ちゃん。
骨折からの肺炎で寝たきりになって、物も食べられなくなり、身体は弱っていた
はずでしたが、こうきのあいさつには元気に声を出していました。
 3月に退院できることになって、お祖父ちゃんは嬉しそうでしたが、こうきは病院
に行く楽しみがなくなって、ちょっぴり残念そうでした。
 「おじいちゃん、うちに帰りますか」
 「おじいちゃん、うちに帰ってきてたいへんですか」
何度も繰り返していましたが、、こうきなりにお祖父ちゃんの大変さをわかっていた
のかも知れません。

 家に帰ってきたお祖父ちゃん、半年振りに飼い猫と顔を合わせ、庭からの春の風を
感じ、窓越しに隣の奥さんと話をし、車椅子で食卓にもつき、デイサービスにも出か
け・・・少しずつ、日常を取り戻しつつあったその矢先でした。突然熱を出し、それから
あっという間に遠くへ逝ってしまいました。
 こうきは新学期が始まり、寄宿生活に入っていました。月曜日に出て行って、金曜に
帰ってきたときにはお祖父ちゃんが亡くなってしまっていて、少なからず混乱はあった
と思います。
 「おじいちゃんは天国に行っちゃったよ」
そうこうきに伝えると、その時は落ち着いて受けとめているように見えました。
 けれども、お通夜と葬儀が終わり、しばらくすると、
 「おじいちゃん、なくなっちゃったですか」
 「おじいちゃんはもう見えないですか」
何度も言うようになりました。
 「そうだね、見えないのはさみしいねえ。こうきもさみしい?」
 「さみしいです」
 「このいえは四人になっちゃったですか」
 「そうだね。四人になっちゃったね」
 「おじいちゃん、帰ってきますか」
 「そうだなあ、もう帰ってこないかな・・・」
 何気なく返事をすると、
 「おじいちゃん、帰ってきます!」
と強い口調に。
 そこからはだんだんに早口になってきます。
 「おじいちゃん、帰って来れないですか、また帰ってきますか」
 「おじいちゃん、また生まれますか。いつ生まれますか」
 「一日生まれたい。おばあちゃんも、生まれたい。二人いっしょ帰ってください」
 「一月よやく、帰ってください。パソコンで予約してください。今から、注文します!」
 「おじいちゃんとおばあちゃんと生まれるの、今からたのんでください。今日たのみ
たい。予約して生まれたい!」

 淡々としていると見えた心のうちにも、人がいなくなってしまうことの不思議さや、
何とも言えない欠落やさみしさのようなものを感じていたのか、とはっとしました。
 「生まれるの、予約できたら、本当にいいよね」
答えながら、自分もまたこうきの言葉にふっとなぐさめられたような気がしていました。


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